28日、温州市の事故現場で記者会見した温家宝首相は、冒頭、意外な事実を明らかにした。現場に来るのが、事故発生から6日後になったのは、病気で11日間も病床にあったからで、今日はむりやり医師の許可を取って退院してきたと。

 

温家宝首相が病気だったとは知らなかった。

 

一国の首相、それも中国のような大国の首脳が11日間も入院していたというのは、本来、新聞の一面トップを飾るほどの重大ニュースである。しかし、会見の席上、病名はなにか、すぐに執務をとれる状態なのかといった、質問はなかったようである。

 

日本の首相が、メディアの監視を逃れて11日間も入院するなど不可能である。中国の場合、ああいうお国柄だから、温家宝首相の動静に関して何の報道もなかったからといって、そう驚くこともあるまい。

 

むしろ、温家宝首相がみずから病床にあったのを告白したほうが驚きである。古今東西、政治家は健康を誇示することはあっても、自分から病気を話すことは、それこそ必要に迫られるまでは、まずなかった。

 

温家宝首相は、なぜ、あえてタブーを破ったのか。当然、それなりの狙いがあったと思う。

 

現場に来るのが遅れたから、その言い訳だったのか。

 

大地震などが起きたときなど、周知のように温家宝首相の行動はすばやい。その点、たしかに今回は遅い。しかし、事故の規模からいえば、鉄道相クラスで十分であり、温家宝首相が出遅れを謝るほどのことでもない。したがって、言い訳のために、自分の病気を明かしたとは思われない。

 

政府批判をかわすためか。それもあるが、敵は本能寺だ。

 

温家宝首相が病身にもかかわらず、現場に駆けつけ、真相究明を約束し、背後に汚職などの問題があれば、断固処分すると強調したのは、ズバリいって鉄道省を解体する狙いがあったのではないか。

 

その際、自分の体調を正直に話すことで、並々ならない胡錦濤・温家宝執行部の決意にそれなりの悲愴感をにじませたにちがいない。

 

長く人民解放軍の影響下にある鉄道省は、国務院にとっては、好ましからざる存在であったし、ずっと江沢民系の利権の巣窟でもあった。温家宝首相にとっては、まさに好機到来で、病床に伏している場合ではなかった、というのがわたしの推測である。

 

〔フォトタイム〕

 

蔵前橋その5

橋の上の、力士を描いたオブジェが、かつての蔵前国技館を偲ばせてくれます。