クラシックやオペラ公演の会場は、演奏が始まる直前には、扉を閉めてしまう。だから、開演直前に駆け込んでくる人たちは、皆、必死だ。

 

思わぬアクシデントで定刻をすぎて会場に到着した場合は、最初のほうは諦めて、つぎの小休止まで客席の外で待つことになる。

 

さいわい、わたし自身は遅刻したことはないが、以前、オペラ好きの知人が一度経験し、高額のチケットの前半をムダにしてしまったとボヤいていた。

 

電車の遅れに遭遇したかれは、駅から会場までの67分を走ったが、音楽ホールのある建物の入り口で定刻の時間になり、そこであきらめて歩いたという。同じ状況にあったら、知人同様、ほとんどの人が急ぐのをやめてしまうにちがいない。

 

なにしろ建物から公演会場まではけっこうあるし、席が3階なら、建物の入り口に1分前に着いても絶望的だ。

 

しかし、あきらめるのは、まだ早いということを最近、知った。

 

都内でひらかれた、ある外国のオーケストラの演奏会。定刻が過ぎて指揮者が登場するまで5分かかった。この間、あたふたと3人が客席に飛び込んできた。会場の係員は、指揮者が登場しない前なら、こっそりと遅刻者を入場させていたのである。

 

運のいい人たちだ。

 

有名なホールなので、時間にうるさいかと思ったが、けっこう融通をきかせているのだ。

 

そこで、さきの知人の場合だが、かれは、ダメもとで、あきらめずに突進したほうがよかった。ひょっとしたら、開演が延びているかもしれない。

 

ま、そんなことは、万にひとつの幸運。コンサートであれ、なんであれ、余裕をもって出かけることにしよう。

 

しかし、それでも不運な人がいることも知った。

 

同じ会場。定刻の30秒前、前の席の女性が、ふいに席を立ったのである。えっ、いまになって? おなかでもこわしていたのか。まったく、ついていない人だ。

 

しかし、定刻になっても、楽団員が舞台にあらわれない。早く戻ってきなさい、と、こちらまで焦ってくる。2分、3分…まだ、指揮者が姿をみせない。早く、早く。

 

その間、くだんの遅刻3人組が席についた。しかし、肝心の女性が戻ってこない。仲間も、気にしている。4分、5分…う~ん、ついに指揮者が登場した。万事休す。

 

最初の演奏が終わって、扉がひらき、女性が頭をかきかき現れた。元気そうなので安心した。で、そのあとに、ぞろぞろと5人が入ってきた。みな、開演に間に合わなかった人たちである。

 

〔フォトタイム〕

 

東京オペラシティその4

あちこちにベンチがあって、ビルの名前のように、いかにもシティらしい雰囲気でした。