鳩山由紀夫、鳩山邦夫の両氏は、じつに不思議というか、気になる兄弟である。党派がちがうばかりではなく、いつもケンカばかりしているようにみえる。かと思うと、ときどきエールを交換したりもしている。どちらも、母親との絆は強そうだ。

 

いったい、両氏のほんとうの関係は、どうなのだろう。案外、世間一般の兄弟関係よりは、ずっと親密なのではあるまいか。

 

それにしても、ズケズケものをいう兄弟だ。弟の邦夫氏は、「文藝春秋」8月号のインタビューで、「お兄さんは、政治家として、人間として、どのようにみえるのでしょうか」と問われて、こう答えていた。

 

「兄は努力家です。しかし信念の人では、まったくないと思います。自分の出世欲を満たすためには、信念などかんたんに犠牲にできる人です。この点は、兄にたいして非常に辛口にならざるをえない。いまは、虚像が前面にですぎていますよ。実像はしたたかを絵に描いたような人で、自分のためになるのなら、どんな我慢もできるんですよ、あの人は」

 

邦夫氏によれば、「ズルいんですよ、兄貴は(笑い)。兄弟げんかをしても、自分が悪くないように、おふくろにうま~く言い逃れますから。そして、わたしが悪いことになっていく」のだそうで、こうもいい切る。

 

「ズルい人ですから、いまでも政界遊泳術という点では、日本一のスイマー(注・泳ぎ手)でしょう。最後に自分がうまく昇りつめられるように、すべて計算して生きてきたという感じがします。だから見事だといえば見事なのですが、わたしのような自分の信念や正義感を大切にする人間からは、考えられない世界に生きている人ですね」

 

兄・由紀夫氏を邦夫氏は、宇宙人と評するが、これらはじつに興味深い人間観察である。というのは、ここに鳩山本家の当主、由紀夫氏の心意気が感じられるからである。

 

どういうことかといえば、由紀夫氏は実弟から政界遊泳術にたけた政治家という烙印をおされたけれど、実際は、当選7回にしていまだに大臣にもなっていない。むしろ弟のほうが、文相、法相、総務相と大臣の経歴を重ねてきている。

 

それなのに由紀夫氏のほうは、いわゆる公職においては、細川内閣の官房副長官がこれまでの最高ポスト。宮中席次でいえば、弟さんのほうが、ずっと上席だ。

 

つまり、鳩山家の長男は、官房副長官から、閣僚の経験なしに一挙に内閣総理大臣になろうとしているのだ。

 

にもかかわらず、由紀夫氏には、これまで華麗なる経歴をもつ弟への劣等感など微塵も感じられなかった。こういう場合、えてして本音と建前はちがうものだが、由紀夫氏の本心はあくまでも恬淡としていたと思う。

 

それは、なぜか。要するに、伝統ある鳩山家の後継ぎとしては、内閣総理大臣にならないかぎり、目標には到達しないという自負があるからだ。したがって、由紀夫氏の政界遊泳術とは、まさに首相官邸へまっしぐら、ということ。外相で終わった父親のように、大臣になっても達成感がないのだ。

 

こういう由紀夫氏の宇宙論的な政界遊泳法がわかれば、今回、首相を辞めたら、政界を引退する、という宣言も容易に理解できる。目指すべき目標がなくなった永田町に、未練などさらさらないのが当然なのである。

 

もし鳩山由紀夫氏が夢を実現したとしよう。晴れて内閣総理大臣となって祖父・一郎氏と並んだとき、それで念願の目的を達成したと感慨にふけるのは構わないが、国民のほうは、個人的な達成感などに興味はなく、いかに盛りだくさんのマニフェストがスムーズに実現されていくかが、最大の関心事。

 

まだ国民の信任を得ていないのだから、「マニフェストが実現できなければ、辞める」といったことを、いまから軽々しく口にしないほうがよい。それとも、そういうコメントにも、日本一の政界スイマーの思惑というか、なにか計算づくが隠されているのか。

 

〔フォトタイム〕

 

上野の西郷さんその2

上野の山に上がって、この西郷さんを眺めていると、初心に帰ったような気持ちになります。東北出身だからかもしれませんが。