世界の不況は、いつ回復するのか。そのカギを握るのは、アメリカと中国。とりわけ後者への期待は大きいが、もっと突き詰めれば、中国の農民対策の結果いかんとも思える。

 

内陸部に住む中産階級のエコノミックパワーへの期待は当然にしても、8億9000万人の農民の不満を解消しないことには、中国の安定はおぼつかない。農民の不満が沸騰点に達したときは、中国共産党政権の終焉のとき、というのは、だれでも推測できることだ。

 

けさの日本経済新聞は、<中国経済が真の強さをもつための課題>を、SOHO中国会長、潘石屹(はんせききつ)氏に聞いていた(SOHO中国は、香港に上場する北京の不動産デベロッパーだという)。

 

そのなかで、潘会長は、同紙中国取材班の「農村をどうするか」という問いに、つぎのように答えていた。

 

「(都市と農村の戸籍を分けている)戸籍制度を改革すべきだ。農村は社会保障、教育など各面で待遇が劣る。改革の方向は(都市と農村の間の)公平性にある」

 

「土地問題もある。農民の土地は集団所有制だ。政府が土地を農民に(私有地として)返還すれば、強制立ち退きなどの社会問題もなくなるうえ、豊かになるだろう。土地があれば農民の購買力が増す。農民が土地を使って農作業をしても、売却して事業を興してもいい。農作業が得意な農民に売れば、農業を集約的に運営できる」

 

潘会長が指摘するまでもなく、農村戸籍と都市戸籍という差別をなくす方向で、北京政権も動いている。しかし、なかなか進んでいない。思いきって全廃したい気持ちは、胡錦濤主席の胸のうちにもあると思うが、踏みきれない。

 

なぜ、できないか。ダムの決壊のような恐ろしさを予感しているからだ。農村戸籍というのは、農民を農村にしばりつけておく手段であって、歯止めがなくなれば、かれらの一部が都市部へ殺到するのは、目にみえている。

 

中国の場合、「かれらの一部」といっても、その一部が半端な数ではないのだ。「ほんの一部」という表現が、東京都の人口に匹敵するとか。

 

平等を基本とする社会主義国で、不平等でしか体制を守れないという矛盾した状況。それを打破できないところに、中国共産党政権の深い苦悩がある。

 

潘会長がいうように、中国政府が土地を農民に私有地として返還すれば、それは、私有財産の保護を明記した物権法の採択以上のインパクトをもち、文字どおり社会主義との決別を意味する。

 

中国政府は、すでに土地使用権の売買を容認しているが、問題が続出している。たとえば土地を手放した人たちが、結局、ほかの商売で自立できずにいる。おカネは、どんどん減っていく。土地というよりどころを失って、さ迷っている元農民はすくなくない。

 

いずれにしても北京の不動産デベロッパー経営者が思うほどに、中国の3農(農村、農民、農業)問題を解く方程式は、やさしくないのである。

 

〔フォトタイム〕

 

渋谷駅のオブジェその2

忠犬ハチ公は、相変わらずの人気でした。