買ったまま、ずっと仕舞いっぱなしのDVDを取り出してきた。「二重スパイ」という韓国映画だ。北朝鮮の女スパイ事件があったので、思い出したという次第。

 

1980年代の、韓国と北朝鮮の情報戦の雰囲気が、よくわかった。フィクションとはいえ、いまも昔も、実際に緊張関係にある南北だけに、あながちぜんぶがぜんぶ絵空事とも思えない。

 

北から亡命した主人公のイム・ビョンホを待っていたのは、過酷な拷問であった。なにしろ、かれは北の情報機関につとめていた、危険きわまりない人物。なぜ、南へ亡命したのか。韓国当局にすれば、人権無視の拷問までしても、ウソ偽りのない、本音を知りたいのだ。

 

「南には自由があるから…」と、息も絶え絶えにイム・ビョンホ。そのことばをあざわらうように、南の取調官がいう、「お前は情報機関にいたのだから、知っているはずだ。南にも自由がないことを」。

 

19821224日。韓国、スパイ教育訓練場。北朝鮮から亡命したイム・ビョンホは、勤務ぶりが認められて教官に抜擢された。訓練生は、脱北者たち。実際に機関銃を発射してみせ、こう教える。

 

「この音を忘れるな。中国製56型は、このように発射時に特殊な音がする。有効射程距離と判断される場合、すぐに身を隠せ。北の偵察隊は、250㍍の距離から命中させる訓練をうけている。交戦が勃発したら、敵が兵力を増強する前に任務を終え、落伍者を残してはならない」

 

かれは、有能な教官であった。2年後、スパイ訓練場へあらわれた上司は、イム・ビョンホに話しかける。

「その軍服を着て、どのくらいになる?」

「もうすぐ2年です」

「ようやく馴染んだところだが、その軍服ともお別れだ」

「はい?」

「1月4日付で情報収集と作戦計画の業務を担当してもらう。これからは亡命者にスパイ教育をする教官ではなく、本部(国家安全企画部)の正式要員だ。おめでとう」

 

まんまともぐりこんだ北の情報部員が、韓国の諜報組織の中枢潜入に成功する瞬間だった。

いずれも映画のシーンだが、実際に朝鮮半島では、これに似た、生々しい情報戦がいまも展開されているのだろう。

 

さて、映画「二重スパイ」はどう展開するのか。じつは、途中で、用事があって、中断。まだ、半分もみていない。わたし自身、どういう結末になるのか、興味津津(しんしん)である(あすにつづく)。

 

〔フォトタイム〕

 

桜田門その6

皇居周辺は、なごみの場でもあります。