NHK会長になった籾井勝人(もみい・かつと)氏は、三井物産副社長や日本ユニシス社長をつとめてきたビジネスマン。メディアの流儀というものに慣れていなかったのか、メディアのペースに乗って話題を提供するハメになった。
うかつというか、生真面目すぎた。
メディアの世界に飛び込んだからには、メディアの手法と怖さについて事前に勉強しておくべきだった。
今回、ニュースとなった慰安婦などに関する発言は、なかなか勇気ある意見で賛同した人もすくなくないと思う。
「戦時中だからいいとか悪いとかいうつもりは毛頭ないが、この問題はどこにもあること」とか、どれもごく常識的な発言である。
半面、やっぱり籾井さんは商社マンだなあ、とも思う。ビジネスとメディアの世界のちがいに気づかず、まんまと罠にはまってしまった。
質問者から従軍慰安婦ということばが出たときの身構え方が正直すぎた。NHK会長と慰安婦問題。格好のとりあわせである。
大方のメディアは、爪の先くらいのことばでもニュースにしようと虎視眈々と狙っているのだから、こういうときはうまく肩すかしをくらわせたほうがよいのだ。たとえば、こんなふうに。
――慰安婦問題について、会長はどうお考えでしょうか。
「むつかしい問題ですね。勉強しておきます」
しかし、籾井さんはまっとうに答えた。そして批判された。
哀しいことに、メディア界の現在の風潮では、そういう手練手管が、NHK会長には必要である。
いわんや、「会長の職はさておき」なんて言い方はメディアの世界では通用しない。商社マンが商談で、「これは個人的な意見ですが」といったら、バカにされるのと同じこと。
籾井会長は、あわてて「発言を取り消します」といったそうだが、これまた、みっともない。
NHK側の会長へのレクチャーが足りなかった。「記者会見にオフレコはありませんから」と、きつく伝えておくべきだった。
もっとも、これで籾井さんはメディアの正体を見たと思う。恥じはかいたが、いい教訓になったはずだ。
〔フォトタイム〕
和田倉噴水公園その7
高層ビルとのコントラストもたのしめます。