2008年08月

韓国映画「二重スパイ」をみて、なるほど、と思ったことばがある。南で人気のある女優、じつは、北の女スパイだが、彼女の上司が、「お前に頼みがある。わたしが戻らなければ、このなかの指示どおりに動くように。感情が、銃より恐ろしい。凶器になることもある。お前を守れるのは、平常心だけだ。気をつけて」と、話す場面がある。

 

この、<感情が、銃より恐ろしい>というのが、印象に残った。いうまでもなくインテリジェンスに、私情は禁物だ。感情にもいろいろあるが、いちばんやっかいなのは、恋愛感情であろう。

 

彼女の上司というのは、朝鮮労働党序列58位。南に潜伏する北の組織のボスだった。その大物スパイが、韓国当局に逮捕された。彼女は、ボスを尊敬していた。

 

皮肉にも、捕まったボスの取り調べを担当させられたのが、脱北者を装って、まんまと韓国の国家安全企画部のメンバーになった本編の主人公。かれは、ほんとうは自分の上司であるボスを、容赦なく殴りつける。

 

映画は、上下関係によって生じるはずの感情を、みじんも映し出さない。むしろ、憎しみをもって、殴りつづける主人公をアップで強調する。

 

現実世界で、こういう事態が生じたら、どうだろう。本気で、上司を殴ることなどできるだろうか。しかし、組織の論理からいえば、これは容認される行為のはず。

 

というのも、組織にとっては、敵に逮捕されて役立たずとなった幹部より、敵の中枢にもぐりこんで情報を取ってくる工作員のほうが、はるかに大切なのだ。

 

このように冷徹で、思想堅固、北のスパイとしては、満点の本編の主人公だが、冒頭の女スパイとの出会いで、心がゆれる。かれは、どうしたのか。それはおいて、スパイにとって、恋愛感情は、ご法度。銃より恐ろしいのである。

 

〔フォトタイム〕

 

桜田門その7

桜田門から日比谷方向へ行けば、楠木正成像があります。

買ったまま、ずっと仕舞いっぱなしのDVDを取り出してきた。「二重スパイ」という韓国映画だ。北朝鮮の女スパイ事件があったので、思い出したという次第。

 

1980年代の、韓国と北朝鮮の情報戦の雰囲気が、よくわかった。フィクションとはいえ、いまも昔も、実際に緊張関係にある南北だけに、あながちぜんぶがぜんぶ絵空事とも思えない。

 

北から亡命した主人公のイム・ビョンホを待っていたのは、過酷な拷問であった。なにしろ、かれは北の情報機関につとめていた、危険きわまりない人物。なぜ、南へ亡命したのか。韓国当局にすれば、人権無視の拷問までしても、ウソ偽りのない、本音を知りたいのだ。

 

「南には自由があるから…」と、息も絶え絶えにイム・ビョンホ。そのことばをあざわらうように、南の取調官がいう、「お前は情報機関にいたのだから、知っているはずだ。南にも自由がないことを」。

 

19821224日。韓国、スパイ教育訓練場。北朝鮮から亡命したイム・ビョンホは、勤務ぶりが認められて教官に抜擢された。訓練生は、脱北者たち。実際に機関銃を発射してみせ、こう教える。

 

「この音を忘れるな。中国製56型は、このように発射時に特殊な音がする。有効射程距離と判断される場合、すぐに身を隠せ。北の偵察隊は、250㍍の距離から命中させる訓練をうけている。交戦が勃発したら、敵が兵力を増強する前に任務を終え、落伍者を残してはならない」

 

かれは、有能な教官であった。2年後、スパイ訓練場へあらわれた上司は、イム・ビョンホに話しかける。

「その軍服を着て、どのくらいになる?」

「もうすぐ2年です」

「ようやく馴染んだところだが、その軍服ともお別れだ」

「はい?」

「1月4日付で情報収集と作戦計画の業務を担当してもらう。これからは亡命者にスパイ教育をする教官ではなく、本部(国家安全企画部)の正式要員だ。おめでとう」

 

まんまともぐりこんだ北の情報部員が、韓国の諜報組織の中枢潜入に成功する瞬間だった。

いずれも映画のシーンだが、実際に朝鮮半島では、これに似た、生々しい情報戦がいまも展開されているのだろう。

 

さて、映画「二重スパイ」はどう展開するのか。じつは、途中で、用事があって、中断。まだ、半分もみていない。わたし自身、どういう結末になるのか、興味津津(しんしん)である(あすにつづく)。

 

〔フォトタイム〕

 

桜田門その6

皇居周辺は、なごみの場でもあります。

国家保安法違反で韓国当局に逮捕された北朝鮮の工作員、元正花(ウォン・ジョンファ、34歳)の写真が、新聞やテレビで公開された。なかなかの美人である。けさのフジテレビ「とくダネ!」などが伝える彼女の素顔は、これまた映画のようにドラマチック。予想どおりの、おおいに関心をひきつけるスパイ事件だ。

 

金賢姫のような、正統派工作員とのちがいは、はっきりしている。北の工作員に正統派とか、非正統派の区別をつけるのは、笑止千万かもしれない。ただ、金賢姫と元正花をならべてみれば、前者のほうが、はるかに使命感にもえた筋金入りの工作員であったことは、一目瞭然である。

 

いい家庭に育った金賢姫は、選抜されて早くから工作員教育をうけた。元正花は、もともとコソ泥である。たくみな逃亡生活が工作員にスカウトされるきっかけになったというのだから、推して知るべし(追記・そのご、彼女はスパイ一家に育ったことがわかった)。

 

もっとも、スパイとしての素質は、元正花のほうが上。彼女を知る男性が、「明るくてポジティブ。外見は清潔で頭もいい」と話していた。端正な金賢姫のほうが、元正花より、外見は清潔で頭もいいと思うが、金賢姫はどちらかというと陰性。男スパイは陰性のほうがいいけれど、女スパイは陽性タイプがむいている。

 

秀才タイプの金賢姫に頭脳では劣るかもしれない元正花だが、機転のきく点では、金賢姫より元正花のほうが上手にちがいない。結婚相談所へ行って、軍の将校を紹介してもらうなど、目の付けどころがわるくない。

それにしても、北の工作員に軍施設までのぞかれていた韓国当局は、ショックであろう。

 

元正花がうけた北の指令は、亡命した華長燁・元書記の居場所をつきとめることだったという。これは重要度ランクからいえば、Aクラス。彼女の工作能力が、北の信頼をうけていたのがわかる。

 

現時点での北朝鮮の女スパイにかんする情報は、本人の証言であっても、真贋が入り乱れている。どれが真実で、どれがつくり話か、ひとつ、ひとつ精査する必要がある。

 

たとえばファン大尉との恋物語だ。彼女は、大尉と結婚して北へ戻ることを夢見ていたという。日本への潜入も、その実現のためらしいが、真相はわからない。北の意図する工作のもろもろが、彼女の口から洩れるかもしれない。これからも、ずっとフォローしていきたい事件だ。

 

〔フォトタイム〕

 

桜田門その5

「桜田門」とほられた石碑がありました。

隠密、お庭番、忍者などと呼ばれた時代はもちろん、情報部員といわれる現代でも、スパイという職種には、どことなく不気味な陰影と、哀感がただよう。

 

決して表舞台で脚光を浴びることはないし、どんなに業績をあげても、ほとんど後世に伝わることもない。しかし、かれらの仕事が、組織の命運を決めることがある。

 

実際は、地味な仕事のはずだが、隠花植物のような存在が人々の関心をひきつけるのだろう、スパイを主題にした映画はすくなくない。

 

スパイ映画に色模様はつきもので、そこに登場するヒロインは、例外なく美人と相場が決まっている。現実世界でも、女スパイは、容姿端麗なのかもしれない。

 

けさの産経新聞で黒田勝弘ソウル支局長が、興味深い女スパイ事件を伝えている。記事によれば、韓国では、北朝鮮からの脱北女性が韓国軍将校などと肉体関係をもち、軍情報を入手して北朝鮮に送っていたスパイ事件が明るみに出て話題になっているというのだ。

 

北朝鮮の女スパイは、34歳。彼女に軍の情報を提供していた将校は、26歳。彼女が脱北者を装って韓国へ渡り、この将校と出会い、そして籠絡するまでの日々は、映画のようにドラマチックであったにちがいない。たぶん、映画のヒロインのように、魅惑的な女性なのだろう。

 

それにしても、つらい任務ではないか。おそらく、彼女は、逮捕されて、ほっとしているのかもしれない。

 

〔フォトタイム〕

 

桜田門その4

150年近く前、大老井伊直弼が、この江戸城門前で殺されたとは、想像もできないほどに桜田門周辺は静かです。

格差社会がいわれて久しい。国際社会も資源をもつ国、もたない国の二極化が明暗をわけている。どうしようもないことだが、天の配剤なるものは、まことに不公平である。

 

日本のような資源に恵まれていない国は、才覚と手先の器用と勤勉さを活かして、ものづくりに精を出すことで、今日の地位を築いた。

 

ところが、外国から得ていた資源が高騰して、日本経済は苦しんでいる。昨晩、NHKでも放映していたが、資源のある国だけが、繁栄を享受している。

 

世界的な不況。オーストラリアのヨットハーバーは、鉄鉱石の高騰で国民も恩恵をうけ、おかげでヨットがいっぱいだが、そういうところは多くない。各国の観光地で、客足がぐんと減ってしまったところがすくなくない。

 

けさの朝日新聞によれば、<人口が500万に満たないノルウェーに、世界最大級の政府年金基金がある。北海油田の発見で豊かになった同国は、石油で得た富を永続的な財産に変えて、国民の暮らしを支えようとしている>とか。

 

うらやましい話である。もっとも、油田には、かぎりがあるので、ノルウェーの国民は、子々孫々まで、安心してはいられないが。

 

海に囲まれた日本だって、資源がないわけではない。ただ、そう多くはないので、それぞれに貴重であり、大切にしたい。

 

東シナ海のガス油田開発問題で、日中間の詰めの交渉が長引いている。日本の権利を守ることは、子孫の財産を守ることでもある。日本政府は、毅然とした態度で臨まなければならない。

 

さいわい地球上には、どの国も公平に享受できる資源がある。太陽熱や地熱などだ。これらの資源をどう活用するかが、各国の勝負となろう。ここに日本の出番があり、世界から期待されている。

 

〔フォトタイム〕

 

桜田門その3

桜田門外の変は、万延元(1860)年の3月3日、辰(たつ)の刻に起きました。午前9時、雪が降っていたそうです。

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