2008年05月

以前、旅行好きの中年の女性に、「これまでの海外旅行で、どこが一番印象的でしたか」と聞いたら、「そうですね、アイスランドかしら。よかったですよ」といったものだ。先日、当欄でイギリスの調査会社エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる世界平和指数で、日本は140か国・地域のなかで世界5位であった、と書いたが、このときの1位はアイスランド。きのうも、テレビでアイスランドを取り上げていた。

 

アイスランドは10万3000平方キロ㍍の領土に、人口はわずか30万人。半数以上が、首都レイキャビクに住んでいる。ちょっとデータは古いが、2005年版「世界の国一覧表」(世界の動き社発行)によると、「1人あたりGDPの大きな国(2003年)」でアイスランドは7位(3万6711ドル)。ちなみに、日本は8位(3万4010ドル)だった。いま、世界がアイスランドに注目するのは、再生可能エネルギーで全消費量の80%をまかなっているからだ。

 

「ニューズウイーク日本版」5月28日号に、<アイスランドは電力優等生>という記事が載っている。ダニエル・グロス記者のリポートの書き出しは、こうだ。

<ブルーラグーンは、アイスランドでもっとも「ホット」な観光スポットだ。記者が訪れたのは3月。近くの地熱発電所から立ちのぼる水蒸気が横なぐりの雨にかき消される寒い日だったが、ブラジルの若者グループや日本人カップル、アメリカ東海岸の名門私立校から来た高校生の一団が、乳白色の温泉に入り、二酸化ケイ素を含んだ泥を体に塗りたくっていた>

 

皮膚病に効くというので、ブルーラグーンの温泉施設には、年間40万7000人が訪れる。この施設ができたのは、まったくの偶然からだ。地熱発電所が排水を放出しはじめると、そこに含まれる塩分と藻類と二酸化ケイ素が水流をせき止め、殺風景な溶岩原に温水プールができたのである。それが皮膚病にいいことがわかって、大繁盛することになった。

 

アイスランドの断層は、熱源として使えるマグマをたっぷりとたくわえている。そこで地熱発電所が、大活躍することになる。ほかに水力発電もあって、電力にかんして化石燃料は必要なし。住宅の暖房も、地下の温水でまかなわれる。アイスランドで化石燃料を使うのは、車と漁船だけ。地熱発電で観光客を集め、水力発電で大企業を誘致するアイスランドのエコ作戦は、いまのところ大成功である。

 

〔フォトタイム〕

 

政策研究大学院大学その1

八田達夫学長によれば、政策研究大学院大学は、<政策および政策の革新にかかわる研究と教育を通して、わが国および世界の民主的統治の発展と高度化に貢献することを目的として、1997年に設立された大学院大学>です。

日本は、世界有数の断層国である。全国で断層が2000か所以上もあるとみられている。それだけに四川大地震でみせつけられた断層炸裂の衝撃は、途方もなく大きかった。

 

昨晩のNHKスペシャル「中国・四川大地震」で、静岡大学大学院の林愛明教授が、今回の断層の動きについて説明していたが、背筋の凍るような話であった。林教授は、地震発生の2日後に現地に入って、断層の調査をつづけた。

 

林教授によれば、震源から始まった断層のズレは、1秒間に3キロという猛スピードで北東へ進んだという。地上にあらわれた断層は、じつに250㌔におよび、これは東京―浜松間に相当する。恐怖の断層は、そこをなんと、わずか90秒で駆け抜けたというのである。

 

地震の、この瞬発力に、人類は抗すべき手段をもたない。四川大地震がこのときに発したエネルギーは、阪神・淡路大震災の30倍を超えるといわれている。自然の脅威に、人間の無力を感じざるを得ない。しかも試練は容赦なくつづき、いま被災地のあちこちが、おそろしい土砂ダムの決壊にさらされているのだ。

 

〔フォトタイム〕

 

数寄屋橋交差点その7

すぐ近くにドラマ「君の名は」で有名になった数寄屋橋があります。

四川大地震の学校倒壊と手抜き工事については、以前もふれたが、こういう問題は繰り返し取り上げて、注意を喚起してよいだろう。

 

先日、テレビのニュースをみていたら、倒壊した校舎の前で、多数の親たちが、地元の教育幹部に激しく抗議しているところが放映された。居たたまれない場面だった。崩れ落ちた校舎の下には、一人っ子政策の中国人家庭で、小皇帝ともいわれる子どもたちが、大勢生き埋めになっているのだ。親の気持ちは、とてもことばでは表せない。

 

けさの産経新聞社会面で、中国総局の野口東秀特派員が、倒壊現場から子どもを失った親の悲しみの姿をリポートしている。「お願いだから、帰ってきて」と、叫ぶ母親。中学3年の娘を失った両親は、毎日、現場に足を運んでいるという。

 

記事によれば、倒壊した校舎は6900棟といわれる。子どもを失った親たちは、手抜き工事が倒壊の原因として地元政府を告訴したり、調査を要求したりする動きがでているという。当局も事態を重視しているという。徹底的に調べ、悪徳建築業者を摘発し、ほんとうに手抜き工事があったなら、監督する立場にあった行政の担当者もふくめて厳罰に処してほしい。

 

そのことは、単に中国のこんごのためだけでなく、世界の建築業者らへの警告となるはずだ。四川大地震を契機に、公共建設から手抜き工事がへっていけば、亡くなった児童、生徒らもすこしは浮ばれると思う。

 

〔フォトタイム〕

 

数寄屋橋交差点その6

数寄屋橋交差点は、東京でも有数の活気のある交差点ですね。

せっかくの週末。すこし、日本にかんする、いい話でも書いてみたい。ずっと低迷をつづけ、斜陽化していた日本の国際評価も、すこしずつ上昇気運にあるようだ。この手の話は、下がるより、上がることのほうがいいにきまっている。昔ほどの勢いはのぞめないにしても、日本の復活は、うれしいではないか。

 

朝日新聞5月22日付夕刊によれば、イギリスの調査会社エコノミスト・インテリジェンス・ユニットがまとめた世界平和指数で、日本は140か国・地域のなかで世界5位であったという。1位はアイスランドで、G8のなかで日本だけがベスト10入りした。中国は67位、アメリカは97位、最下位はイラクとか。

 

同記事によれば、世界平和指数というのは、軍事費や近隣国との関係、人権状況など、単に戦争をしているかどうかだけではなく、平和な社会の実現に必要な24分野の指標を設定して割り出したという。ほんとに、この日本が平和なのかどうか、実感としてはよくわからないが、他国の客観的なリサーチの結果は、素直に聞き入ることにしよう。

 

日本経済新聞5月15日付朝刊によれば、スイスの有力ビジネススクール、IMD(経営開発国際研究所)が発表した「2008年世界競争力年鑑」で、日本の順位が昨年の24位から22位に上昇したという。

 

同記事によれば、IMDは、55か国・地域のマクロ経済、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラの4分野、331項目の統計や聞き取り調査の結果を集計し、競争力を示すランキングを作成しているという。1位、アメリカ。2位、シンガポール。3位、香港だった。

 

日本は、消費者の満足度は1位、従業員の訓練は3位だったとか。これまた、実感としてはよくわからないが、ともかく国際評価のアップは大歓迎である。

 

〔フォトタイム〕

 

数寄屋橋交差点その5

数寄屋橋交番寄りの公園から撮りました。むこうにソニービルがみえます。

先月、石平さん(日中問題評論家)の出版記念パーティーがあったとき、若い女性編集者と名刺を交わした。先輩ぶって編集者冥利などを語って、「面白い仕事ですから、長くつづけたほうがいいですよ」と、柄にもなくアドバイスまでした。そのうちに、彼女が、ほんとうは裁判官志望だったときいて、ちょっととまどった。

 

編集者はたしかにやりがいがあるが、裁判官はもっと崇高な職業のように思われたので、咄嗟に、「司法試験もあきらめることはないですよ」と、いった。あとで、余計なことをいってしまったかな、と気になった。編集者生活のほうが、宙ぶらりんになってはまずいからだ。

 

きのう、宇都宮地裁判事(55)が、裁判所の女性職員に対するストーカー行為で逮捕された。よりによって、裁判員制度まであと1年という日のスキャンダルだった。この人物に同情する気はまったくないが、やはり裁判官もふつうの人間ということだろう。

 

この事件があっても、わたしは裁判官への信頼は保ちつづけたいと思う。ヘンな判事もいるようだが、どういう組織でもいくらか異分子はまじっているものだ。

 

昨年の「文藝春秋」4月号に、「もしもあなたが裁判員に選ばれたなら」というタイトルで東京地裁総括判事の合田悦三氏と、キャスターの八塩圭子さんの対談が載っていた。最高裁判所がスポンサーのパブリシテイ―記事である。そこで合田判事が、合議制で意見が分かれた場合は、どうするかという質問に、答えたことが、とても興味深かった。合田判事は、こう述べた。

 

<もしどうしても割れたら多数決ですが、基本は話し合いです。「合議は乗り降り自由」というのが原則で、相手の意見がいいと思ったら、そっちにすぐ乗り換えても良く、「君はさっきこう言ったのに、なんで変えるんだ」というような批判はしないことになっています>

 

八塩さんが、<え、そうなんですか。じゃあ、考えを変えることはむしろ潔(いさぎよ)いことなんですね?>ときいた。わたしも、そう思ったが、合田判事は、こう語った。

 

<ええ。裁判官同士の合議の際も、自分の考えよりも合理的な考えが出て、「なるほど」と思ったらそれに賛成します。意見を言い合うことで主観性を排除して、客観性のあるベストな結論を出すことが目的ですからね。裁判官によって違うとは思いますが、わたしの経験では、多数決になったことは一度もなく、合議の結果、最後は必ず一つの結論にまとまっています>

 

これに対して、「裁判官もまた人事を気にする組織の人間。上司にたてつくと不利なので、そうなっているのではないか」という見方もあろう。そういうケースもあるかもしれないが、それでもわたしは、この「合議は乗り降り自由」に感心した。いや、感動したといってもよい。そういうルールが、政界はもとより、民間の組織にも浸透しているなら、世の中はもっと発展し、清々しい雰囲気になっていくと思う。

 

しかし、現実は、メンツにこだわって、いたずらに我を張る社会となっている。メンツやプライドなどは捨てて、いい意見にはすぐ賛成する、「乗り降り自由」の精神をもとうではないか。

 

〔フォトタイム〕

 

数寄屋橋交差点その4

3000本というソニービルのヒマワリは、千葉県館山市から取り寄せたそうです。

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